ハーフビルドの家づくり
2021年 08月 26日
現地に着くと、二つのツナギ姿が出迎えてくれた。あれが噂に聞いていた若きファーマーかと思いながら車を敷地に乗り入れ、草いきれムンムンの現場に降り立つと、見慣れた笑顔がそこにあった。建主のHさんと、工務店の現場監督ウーちゃんだった。二人ともツナギだったので、離れた場所からだとウーちゃんとはわからなかったのだ。
草ぼうぼうだった現場はきれいに刈りとられ、刈られた草の残骸やハラハラと落ちてくるいろんな葉っぱたちの上を歩いて古家に近づいていくと、大地の柔らかな感触が足裏から全身に登ってきた。
「マイ草刈りです」と、土間に置かれた細長い機械を指してHさんが言った。
ひび割れた土間には蚊取り線香が置いてあって、静かに煙が流れ出ていた。
「やっぱり随分と傾いてますね」と土間に立った僕が室内を見回して言うと、
「家財道具が入っていたときにはあんまり目立たなかったんだけど、何もなくなるとすんごい傾いているのがわかって・・・」
Hさんは古家付きのこの土地を買おうとしていたが、念の為にと診てもらった家屋調査士に「これだけ傾いていたらリノベーションも不可能だと思います」と指摘され、一旦は購入を思いとどまった。簡単なリフォームをするだけで住めるようになると考えていたので、その分の資金しか考えの中にはなく、どうしたものかと途方に暮れたのだ。
「この中に居ると目が回ってくるんですよ」とHさんは笑いながら言うと「でも下だけ見てると大丈夫だから」と言葉を続け、僕らは傾いた古家の、たぶん客間だった場所に下を向いて座り込み、これからの仕事の進め方を話し合った。
畳がはがされた床板の上には建具が山積みにされていて、窓だった場所には外の景色しか覗いていなくて、風が抜け、猛暑なのに涼しかった。
概算工事費の説明をするウーちゃんの横から僕が言葉をはさみ、キッチンにはこだわりがあることを伝え、浴室とトイレ、それに床や壁、天井の材料を何にすれば素人でも内装を仕上げることができるのかというアドバイスをもらい、その手配までも含んで再度見積もりをお願いしたいということなどを話した。
ハーフビルドの家づくりは初めての経験なので、打ち合わせも手探りしながら進んでいく。
「実はダイニングテーブルをお隣の蔵に置かせてもらっているんですけど、見ますか?」とHさんが言うので、みんなで歩いて隣の家に行った。Hさんはこの場所が気に入り、何度もこの辺りに通ううちに知り合いが増えていった。お隣りさんとも親戚のような関係になっていて、それまで住んでいたマンションからこの近くのアパートに引っ越してきた際に、これは使いたいという家財道具を厳選して、そのお隣さんの蔵に置かせてもらっているのだ。昔ながらの土壁をした農家の蔵には、それくらいの空間的な余裕があるのだ。
蔵の奥に、段ボールが積まれた一角があり、その下に大きなダイニングテーブルが置いてあった。それは、幅が二メートルを超えるアフリカ欅のテーブルであり、フェアトレードのやり方でHさんが特注したお気にいりの家具である。
すっかり丸裸にされた庭の所々に、紫色の紐を結えた樹木が立っていた。
花梨や柘榴の実をつけた樹木が、久しぶりの夏空の下で勢いよく茂っている。
お隣に歩いて行く二つのツナギ姿。
背中から共通の目的感みたいな雰囲気が漂っている。良い感じである。
「この紐をつけた木は残そうと思っていて・・・そんな木が東側の方が多いから、駐車場は西側にしたいんです。だから、間取りもすこし変えてもらえますか?」という話になった。
「OK。そのようにしましょう。ところで、有機農業をやっている彼らは今日は?」と訊くと、
「さっきまで近くで作業してたらしんですが、今は別の畑に行ってるらしくて・・・」
車に乗って、丸裸の庭で切り返し道路に出ると、道向かいの田んぼで有機農業で使う緑肥が太陽に輝いていた。その向こうで入道雲が湧きあがろうとしている。若きファーマーに会うのは、次回の楽しみとなった。
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