8年ほど前から住宅のデザインをするようになりました。
フランス文学科出でライターである私がなぜ建築家的なことを始めたのかというと、
理由は簡単です。
シンプルな空間デザインのアイデアで家を建てたかったからです。
シンプルであれば建築コストを低減できるし、きっと美しいはずだから。
奇を衒う必要などないのです。
タイミングよく、ご縁をいただき北欧モダンな外観を持つチェアハウスを太宰府市に建てさせていただきました。
太宰府政庁跡地の程近くにある目の前が緑に包まれた夢のような場所。
建主のO様ご夫妻には一目でそのデザインを気に入っていただき、今も快適に暮らしていらっしゃいます。
太宰府市に建てたチェアハウスは縦型の敷地に合わせたプランになっていましたが、
その後、横型の敷地や広い敷地に建てる平屋ニーズに応える形でフラットハウスも
デザインしました。
特に郊外型住宅の場合は平屋ニーズも多く、その後、数多くの平屋をデザインしました。
しかし、すべてがご提案したファーストプランが建主によって選択されるかというと
そんなことはなくて、幾つものたたき台を経て、ようやくデザイン決定となるケースが
ほとんどです。
そしてその結果、必然的に生まれてくるのが『始まらなかった物語』の数々なのです。
そこに〝未来があったかもしれない空間プラン〟=『始まらなかった物語』には、
実は壮大な空想が注ぎ込まれています。
そこで暮らす人々の日常や希望や飛躍が、その空間の隅々に〝語られることのない言葉〟
で書き込まれているのですから。
この『物語』という視点で見た場合、純粋な建築家とは違って、私にはちょっと異質な
感覚があることに最近気づきました。湯布院の森にたった7坪のモデルハウスを建てて、
それをスモールキャビンというカテゴリーで訴求し、そこから日本の新しい家づくり文化が
生まれるかもしれない、と本気で考えている辺りに、空間に哲学的な意味合いを含有させよう
と希っているどこかしら文学的なアプローチがあることが明々白々だからです。
最近は、小説世界の中で、建物のデザインをすることにもチャレンジしています。
小説世界の進行上、そこに生まれてくる空間デザインを文章で表現しているのです。
実際の土の上ではなく、紙上の設計ですから、割と自由にデザインができます。普段は
キャビンスタイルな空間プランを推奨しているのでオーソドックスな形をした自然派住宅を
デザインすることが多いのですが、空想の物語の中では極めて変面体なデザインも描いてしまいます。
ただ実際の住宅設計でも、大きな円形の土間と屋根で六角形の居住空間をサンドイッチした
建物も建てた経験がありますから、いくら空想の産物とは言え、構造的なエビデンスなどは
しっかりと確保しているので、その経験が空想デザインに与えている影響もゼロではないでしょう。
これから、『始まらなかった物語』の間取りプランと小説世界の中の空想プランとを一堂にかいしたセミナーのようなイベントを開催したいと企画しています。
『始まらなかった物語』にはどんな未来があったのか、小説世界の空想プランにはどんな過去がありどんな未来があるのか。そもそも過去と現在と未来は本当に存在するのか。
サルトルが言うように
実存が本質に先立つのだから、確かにやったもん勝ちなのか? 文学でケンチクを切りながら
いったいどうやったら自分の世界を現実の造形として立ち上がらせることができるのかなどと
いうことを、おもしろおかしくお話しできればと考えています。
建主しか建主の家を選ぶことはできない。
本当にそうでしょうか?
『始まらなかった物語』はデザインする側の中だけでなく、建主の中にもあります。
自分の物語はどこに存在するのでしょう。
365日、その問いが私の頭の中から離れません。
もしかしたら、365日、いろんな空間の中に入ってみることで、自分の未来が垣間見える
のかもしれませんね。
企画しているセミナーイベントは、そんな未来探しのマップの中にコロコロとあなたを誘う
隙間のような穴のような場所になるかもしれません。
イベント企画は近日中にご案内する予定です。
ぜひ私とご一緒に、文学からあなたの物語を創造してみませんか。
プロトハウス事務局代表
インクルーシブデザイン研究所アドバイザー 桑原あきら